
編集元: 今までにあった修羅場を語れ【その26】
学校の先生になって、新卒2年目のとき。担任してたのは低学年。
うちの学校は一学期と二学期の終わり、計2回個人懇談がある。
その2回目の個人懇談のとき、A君のお父さん(Aパパ)と面談中の出来事。
Aパパはシングルファーザーで、息子の育児に色々悩んでいた。
だから4月からアレコレ相談されることが多く、話しやすい保護者ではあったんだけど。
懇談の最中、何かの流れで、
「それはそうと、時期はいつ頃がいいでしょうか?」
と突然聞かれた。突然すぎて、なんのこっちゃ、な私。
「何の時期ですか?」
「式の時期ですよ。あまり忙しい時期だと、そちらのご迷惑かと思いまして、一応お伺いしようかと」
「式??」
「結婚式です」
「は、え、あ、ご結婚されるんですか!?」
「はい、本当にありがとうございます」
「こちら(学校)としては、いつでも構いませんよ。お父様とA君のご都合を優先させてください」
「いえいえ、さすがにそういうわけには行きませんから」
「?A君、転校とかされるんですか?」
「いえ、転校はしません」
「でしたら、私どもの都合はあまり関係がないので」
「そうは言っても、ドレス選びとか色々あると思うんですよね」
「は?え?ドレス??」
「やはり冬休みがいいでしょうかね。先生も少しはお休みできますよね?」
ここまできて、やっと結婚式に自分が招待されていることに気づいた。
Aパパがあまりに堂々としてるから、一瞬、保護者の結婚式に担任が出席するのは普通なのかと焦ったが、
いやいや、いくらなんでも個人的に親しい訳じゃないし、それはおかしいだろうと思い直して、断ることに。
そしたらAパパ、大真面目な顔で、身を乗り出してこう言った。
「何をおっしゃるんです。主役が不在では、式にならないじゃないですか」
いまだにこの瞬間の、何とも言えない耳がキーンとするような衝撃は覚えてる。
Aパパ、私を招待する話をしていた訳じゃなかった。
Aパパと私の結婚式の話をしていた。
当たり前だがAパパとは、「息子の担任」以外の関わりはない。
そもそも告白もされてないのに突然結婚式!?とか、
この人、息子の担任をそんな目で見てたの!?とか、
ちょっと何言ってるか分かんないです状態。
会場はどうのとか親族がなんだとか、勝手に話を進めるAパパを前に、
しどろもどろになりながら否定してみるも、全然会話が噛み合わない。
うろたえる私に「驚かせてすみません」と笑いかけ手を握ってこようとするし、もうパニックもいいとこ。
仮にもクラスの子の保護者だし、穏便に勘違いをただすにはどうしたらと、
泣きそうになってたら、異変に気付いた順番待ちの他の保護者(廊下にいた)が、教室に入ってきてくれた。
そろそろ私の番なんですけど~、との保護者の言葉に、Aパパはすんなり
「では、また日を改めて話し合いましょうね」
と笑顔で去っていった。
あまりに普通すぎて怖かった。
